「みんなが売ってるから売る」が起きた日──バンドワゴン効果でわかる半導体株の暴落と私が降りない理由

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昨日、何が起きたか

2026年7月28日。株式市場が、けっこうすごいことになりました。

日経平均は2,566円安(-3.95%)。一時は3,000円以上下がる場面もありました。

なかでも注目を集めたのが、半導体メモリ大手のキオクシア。この日は「ストップ安」で取引を終えています。

ストップ安ってなに?
株価が1日に下がれる幅には上限が決まっています。パニックで無限に暴落しないためのブレーキですね。その下限までベタッと張り付いて、買いたい人が誰もいない状態が「ストップ安」。キオクシアは1万円安の44,550円で、売り注文を残したまま終わりました。

同じ日、韓国はもっと激しかった。株価指数のKOSPIが約11%下落。サムスン電子もSKハイニックスも13%超の下げ。あまりに下がりすぎて、取引所が「いったん全部止めます」と売買を一時停止する事態になりました。

そして前の晩、アメリカでも半導体株は売られていました。

日本、韓国、アメリカ。時差があるのに、バトンを渡すみたいに、同じ方向へ

なんでこんなに揃うの? という話を、今日は「バンドワゴン効果」というキーワードで、できるだけやさしく書いてみます。


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そもそもバンドワゴン効果って?

バンドワゴンというのは、パレードの先頭を走る楽隊車のこと。音楽を鳴らしながら派手に走るアレです。

みんなが楽しそうに乗っているのを見ると、沿道の人も「なんか面白そう」と飛び乗りたくなる。この、「みんながやってるという事実そのものが魅力になっちゃう」現象をバンドワゴン効果と呼びます。

行列のできてるラーメン屋に、さらに人が並ぶ。あれです。味を確かめたわけじゃないのに、行列が「おいしい証拠」に見えてしまう。

湾岸に住んでると、これ、めちゃくちゃ見る

私の住んでいる湾岸エリアで説明すると、すごくわかりやすいと思うんです。

新しいタワマンが出る。最初に買うのは、街の将来性を自分で計算して動いた少数の人たち。

数年後、値上がりする。ニュースになる。

「タワマンは上がるらしい」と、みんなが買いに来る。

さらに上がる。もっと人が来る。今度は「上がってるから買う」人たちが中心になる。この頃には、最初に買った人たちはこっそり売り抜けていたりする。

そして遅れて来た人ほど、高い値段で、目いっぱいローンを組んで買っている。

──ここで市況が少しでも冷えると、いちばん苦しくなるのは誰か。最後に、いちばん無理して乗った人ですよね。

株式市場で起きているのも、構造としてはこれと同じです。

株の場合、バンドワゴンが2倍やっかいになる

ただ、株には特有の事情が2つあります。

① 「みんなの動き」が数字で丸見え

ラーメン屋の行列は、店の前まで行かないと見えません。でも株価は、全員のスマホに、秒単位で表示される。「みんなが売ってる」という情報が、同時に、全世界に届きます。

② 他人の行動が、自分のお金に直撃する

行列に並ばなくてもラーメンの味は変わらないけど、株は売り遅れたら含み益が消えます。だから「みんな売ってるらしい」は、単なる情報じゃなくて脅威として脳に届く。

この2つがあるせいで、株の世界のバンドワゴンは、めちゃくちゃ加速しやすいんです。

そして、いちばん大事なこと

振り落とされるのは事故じゃなくて、必要な工程だ、ということ。

人が乗りすぎた楽隊車は、重くて前に進めません。でも楽隊車の仕事は前に進むこと。だから進むためには、乗りすぎた人を振り落とすしかない

暴落って、「何かの手違いで起きた不幸な事故」に見えるじゃないですか。でもそうじゃなくて、市場が身軽になって次に進むための、避けられないプロセスなんですよね。

しかも振り落とされるのは、たいていいちばん最後に、いちばん無理して乗った人

これ、けっこう残酷だけど、知っておくと自分の身を守れる話だと思っています。

📚 この考え方を教えてくれた本

『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』
オリバー・ベレス/グレッグ・カプラ 著、藤野隆太 訳(日経BP・2002年)

👉 Amazonで見る

タイトルに「デイトレード」ってあるので、短期売買の人向けの本だと思われがちなんですが、中身の半分以上はメンタルの話です。私みたいな長期のインデックス+個別株スタイルの人が読んでも、めちゃくちゃ刺さります。

なかでも第2章に、バンドワゴンを寓話として描いたパートがあって。楽隊車がどう膨らんで、どう止まって、どう人を振り落とすか。それを物語として読むと、チャートの上下じゃなくて「人間の群れの動き」として相場が見えてくるんですよね。

2002年の本なので事例は古いです。でも人間の心理は20年やそこらでは変わらないので、まったく古びてません。


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今回、バンドワゴンを加速させた4つの「仕掛け」

ここからが本題です。

今回の暴落、実は「みんなが不安になったから」だけでは説明がつきません。心理を何倍にも増幅する仕掛けが、事前に4つ仕込まれていたんです。

仕掛け① レバレッジETF

韓国で、2026年5月27日に、サムスンとSKハイニックスに連動するレバレッジ型ETFが16本、同じ日に一斉上場するという異例のことが起きていました。

レバレッジETFってなに?
ざっくり言うと「株価の動きを2倍にして味わえる商品」。上がるときは2倍うれしいけど、下がるときも2倍痛い。

問題はこの商品の中身です。倍率を保つために、上がったら買い増し、下がったら売らないといけない仕組みになっている。

つまり、人の気持ちと関係なく、機械が勝手に売る。下落が次の下落を呼ぶ装置が、市場に埋め込まれていたわけです。

韓国の金融当局も7月16日に慌てて規制を強化しましたが、すでに買われていた分は残ったまま。Bloombergによると、これらのETFは上場以来60%以上下落していて、高値で買った個人がかなり痛い思いをしています。

仕掛け② 追証(おいしょう)

キオクシアは、信用買いの残高が積み上がった状態でした。

信用買いってなに?
証券会社にお金を借りて、自分の資金以上の株を買うこと。100万円で300万円分買える、みたいな。

これも、下がったときが怖い。一定以上下がると「追加でお金を入れてください」という追証が発生して、期限までに払えないと強制的に売られます

ここが残酷なところで、これは「まだ持っていたい」と思ってる人の株が、システムに引き剥がされるという現象なんです。本人の意思、関係なし。

だから「そろそろ買い時かな」と誰かが思っても、その前に次の強制売りが降ってくる。下げが止まらない。

仕掛け③ 指数の集中

韓国のKOSPIという指数は、サムスンとSKハイニックスの2社だけで構成比率の5割超を占めています。

つまりこの2社が売られると、自動的に「韓国株全体の大暴落」としてニュースになる。

すると、半導体に投資してるつもりのない、インデックス投資をしてるだけの人の資産も減ります。びっくりして、その人たちも売る。

半導体という一部の問題が、市場全体の問題に化けて広がっていくわけです。

仕掛け④ 「取引停止」という恐怖の可視化

韓国では売買が何度も止まりました。これは本来、パニックを冷ますための仕組みです。

でも同時に、「今、異常事態が起きています」という強烈なアナウンスにもなってしまう。

しかも止まっている間、投資家にできることは何もありません。売れない、買えない。でもニュースは読めるし、SNSも見られる。

動けない時間って、いちばん怖くなる時間なんですよね。


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でも「全部ただのパニックでした」で終わらせちゃダメ

ここで「だから今回は売られすぎ! 買いチャンス!」と締めたら気持ちいいんですが、それはやりません。

だってそれ、バンドワゴンを逆向きに乗ってるだけだから。「みんなが売ってるから売る」も「みんなが騒いでるけど私は信じる」も、根拠がなければ同じ穴のムジナです。

今回、実際に事実として変わったこともあります。

🇨🇳 中国のメモリメーカーが本格参戦した

中国のCXMT(長鑫存儲技術)という会社が大型上場しました。IPOには個人から212倍の応募が殺到したと報じられています。市場が怖がっているのは今の業績じゃなくて、この調達資金で一気に生産設備を増やしてくる未来のほうです。

🇨🇳 製造装置まで国産化し始めた

中国の国有企業が、半導体製造に使う「液浸DUV露光装置」の生産を始めたという報道も出ました。本当なら、これは中期的にゲームのルールが変わる話です。

💾 そもそもメモリは「価格勝負」の世界

ここ、意外と知られてないんですが。

半導体といっても種類があって、キオクシアが作っているNANDメモリのようなものは、基本的に価格で勝負するタイプの商品です。お米とかガソリンに近い。作る会社が増えて供給が増えれば、値段は下がる。

だから株価は、今の決算じゃなくて1〜2年先の需給を見て動きます

実際、キオクシアの直近の決算は売上も利益も過去最高でした。それでも売られた。「好決算なのに下がる」のは、市場が次の下り坂を先に見に行ってるサインなんです。

つまり今回の暴落は、心理的な行きすぎ中身の再評価が混ざっている。ここを分けて考えないと、ただの願望になっちゃいます。


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「行きすぎ」と「再評価」、どう見分ける?

今回のことをきっかけに、この2つってどこで見分けるんだろう、と考えてみました。正直まだ答えは出てないんですが、整理するとこういう軸になりそうです。

「行きすぎ」っぽいサイン

  • 追証やレバレッジETFなど、機械的な売りが主役になっている
  • 半導体と関係ない銘柄まで、一律に売られている
  • 売りが一巡すると、素早く反発する
  • 材料が「懸念」「観測」どまりで、数字が出ていない
  • 決算を見ると、心配されていたことが否定される

「再評価」っぽいサイン

  • 中身をちゃんと見た上で、プロが売っている
  • メモリだけ、特定の分野だけがピンポイントで売られている
  • いったん戻っても、そこから上に行けない
  • 出荷量や価格など、実際の数字が動いている
  • 決算で、会社自身が見通しを下げてくる

今回でいえば、7月31日のキオクシアの決算が最初の答え合わせになります。ここの見通しがどう出るかで、かなり切り分けられるはず。

ちなみに、強気の材料もちゃんとあります。

SKハイニックスは、メモリの生産能力を5年で2倍にする計画を顧客に伝えたら「それじゃ足りない」と返された、と明かしています。2026年分はすでに完売。同社CEOは、品薄のピークはむしろ2027年だという見方を示しています。TSMCも2026年の設備投資を最大640億ドルに増額して、AI需要は2030年まで強いと言い切りました。

強気材料も弱気材料も、どっちも本物。だから値動きが荒れるんですよね。


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それでも、私が半導体から降りない理由

AIはこれからも進化します。これは疑ってません。そしてAIが賢くなるほど、メモリはたくさん必要になります。学習にも、推論にも要る。この方向は当分変わらないと思っています。

📚 私が「AIはまだ始まったばかり」だと思う理由

この感覚、株のニュースだけ追ってても実は掴めないと思っていて。私の場合は、この3冊がかなり効きました。


『2034 未来予測――AI(きみ)のいる明日』
中島聡 著(徳間書店・2026年2月)

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Windows 95の開発に関わった元マイクロソフトのエンジニアの中島聡さんが、2034年の世界を具体的に描いた本。今年出たばかりです。

読んでいちばん変わったのは、時間感覚でした。私たちは今のAIを「かなり進んだもの」として見てるけど、この本の視点だとまだ入口なんですよね。8年後を前提に考えると、「メモリが余る」って話がどうにも成立しない気がしてくる。


『松岡まどか、起業します ―AIスタートアップ戦記―』
安野貴博 著(ハヤカワ文庫JA)

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内定を取り消された女子大生が、騙されて「1年で時価総額10億円の会社を作らないと巨額の借金」という契約を結んでしまい、AIスタートアップを立ち上げる話。

小説なのに、事業計画がちゃんとリアルなんです。著者の安野貴博さんがAIエンジニア出身の起業家だからだと思う。資金調達、仲間の裏切り、プロダクトのピボット。エンタメとして普通に面白いのに、読み終わるとAIビジネスの解像度が上がってる。


『サーキット・スイッチャー』
安野貴博 著(ハヤカワ文庫JA・2024年)

👉 Amazonで見る

同じ著者のデビュー作で、こっちはミステリ。完全自動運転が普及した2029年の日本が舞台で、自動運転アルゴリズムの開発会社の社長が、自分の車ごと誘拐されるという導入。首都高を走りながらの犯行声明、封鎖要求、爆破予告。

首都高が舞台なので、湾岸に住んでる身としては情景がリアルすぎて、通るたびに思い出します。

そして読み終わると、AIが社会に組み込まれるって、こんなに膨大な計算とデータが要ることなんだとわかる。「AI=チャットの相手」というイメージが、この本でだいぶ更新されました。


3冊に共通してるのは、AIを「便利なツール」じゃなくて「社会のインフラ」として描いてること。

インフラなら、要るのは電気とメモリです。だから私は、需要のピークがもう来たとは思っていません。

そして日本の技術力を、私は信じています。

ただこれ、「日本製だから安心」みたいなふんわりした話じゃなくて。キオクシアのNAND、フジクラの光ファイバ、素材や検査の分野で世界シェアを握っている会社たち。簡単に他社に置き換えられない工程を押さえている企業が、日本にはまだ残っている。中国が量で攻めてくるなら、むしろそこで差がつくと思っています。

でも、正直に書いておきますね。

「信じてる」は、投資の理由にはなりません。 それは私の気持ちであって、根拠ではないので。

だから私は、気持ちじゃなくてルールのほうを信じることにしています。

  • 売ると決めたら、24時間置いてから実行する
  • 「こうなったら降りる」を、買う前に決めておく
  • そのとき何を感じていたかを、記録に残す

昨日みたいな日に、売らずに済んだ人と、売らされた人。この2つを分けたのは、たぶんメンタルの強さじゃなくて、持ってる量なんですよ。

無理してない人は、暴落を眺めていられる。無理してる人は、システムに剥がされる。

バンドワゴンから振り落とされない唯一の方法は、気合いを入れることじゃなくて、振り落とされない乗り方を先に決めておくこと。

これに尽きるなと、あらためて思った1日でした。


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まとめ

  • 7月28日、日経平均は2,566円安。キオクシアはストップ安、韓国KOSPIは約11%安で取引停止に
  • 加速させたのはレバレッジETF・追証・指数の集中・取引停止という4つの仕掛け
  • ただし中国CXMTの上場など、本当に変わった事実もある
  • 「行きすぎ」か「再評価」かは決算でわかる。まずは7月31日のキオクシア決算
  • 相場の空気から降りる方法は、気合いじゃなくて仕組み

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📚 この記事で紹介した本

デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術
オリバー・ベレス/グレッグ・カプラ ── バンドワゴンの寓話の出典。相場心理の教科書

2034 未来予測――AI(きみ)のいる明日
中島聡 ── 8年後のAI社会。時間感覚が変わる

松岡まどか、起業します ―AIスタートアップ戦記―
安野貴博 ── AIスタートアップ小説。事業計画がリアル

サーキット・スイッチャー
安野貴博 ── 自動運転AIミステリ。舞台は首都高


この記事は個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

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